さらに新しい日記

さらに新しく作られた日記

ビデオミーティングのありかたについて

2020年に続きこんな情勢なので、ビデオミーティングは日常的になったと思います。 それに伴って、ビデオミーティングでカメラをオンにして顔を出すことへの意見もちらほら散見されるようになりました。 ざっくり言うと、コミュニケーションを円滑にするためにカメラをオンにするべき派と、諸事情ありカメラをオンにすることへの抵抗がある派の主張があると思います。

自分はコミュニケーションデザイン認知心理学の研究室の出身であり、顔認知について個人的に調べていたこともあるので、カメラをオンにすることで与える効果についてある程度仕組み的に理解しています。しかし、私は個人的な事情でビデオミーティングで毎回必ずしもカメラをオンにはしていません。このような経緯からそれぞれの立場の意見が分かるので、では双方が納得するようなビデオミーティングの運用方法とはどのようなものかを考えていきたいと思います。

カメラオン、及び顔が与える情報の優位性について

カメラをオンにすることで相手の表情や仕草がわかり、音声だけでは伝わらなかった情報をやり取りできるため、コミュニケーションを取りやすく感じる。これは例え自分がカメラオフ派だとしてもリアルなコミュニケーションから経験していることだと思います。実際、視覚は五感の中でも最も優位な情報源です。特に顔には脳に特異的に反応する部位があったり、また新生児がかなり早い段階で母親の顔を認知していることから、視覚情報の中でも特別なソースであることを示唆しています。

顔の印象形成

顔情報の中でも人に印象を与える重要な要素として表情があります。人が認知する表情はおおまかに幸福、驚き、恐れ、悲しみ、不快、怒りの6種類です。これは印象に大きく左右しています。怒ってる人はこわ、近寄らんとこ、ってなりますもんね。
そして、脳が顔に反応してから印象を抱くまでにどれだけの時間がかかっているかというとなんと 0.1秒 です。ほぼ無意識です。人は顔を0.1秒見て表情を認知して印象を抱いています。そのあとであれこれ付加情報を足して考えることもあると思いますが、印象はその程度で形成されています。

印象とコミュニケーション

心理学分野では情動の過剰般化などと言われたりしているのですが、人は一度受けた印象を拡大適用する傾向にあります。例を挙げると、初対面で怒った表情に見えた相手に対して怖い人だと思ってしまう、ということです。上述の人が印象を抱くスピードと併せると、我々は以前会ったときに 0.1秒で 抱いた印象を過剰般化してコミュニケーションを取っている可能性すらあります。ちょっと言い過ぎかもしれませんが、人の認知なんてそんなもんです。視覚情報がそれだけ非常に効率の良い情報ソースであることの証左とも言えるでしょう。これを逆手に取れば、感じのいい笑顔をして相手の話にこまめに相槌を入れるような仕草をすることでいい印象を与えられる可能性が高いとも言えます。

カメラオフにする諸事情について

人によってそれぞれあると思いますが、カメラをオフにせざるを得ない諸事情の例として

  • 身支度が整っていない
  • 部屋が片付いていない
  • ネットワーク環境が良くなくて、カメラをオンにすると動作が遅くなる

といったことがよく挙げられると思います。前者2つはプライベート範囲の干渉についての問題で、最後の一つは環境起因の問題ですね。 後者の問題は回線工事を強要するわけにはいかないし、納得されやすいと思うのですが、ほとんどの場合問題は前者だと思います。 カメラをオンにしない派の私も前者です。

プライベート/パブリック

先に、どうしても情動的な表現になってしまうことをお詫びします。私は「起きて5分でビデオミーティングにカメラオンで出席することに全く抵抗がない」という感じ方は恵まれていると思ってしまいます。今まで認知の仕組み的な話をしてきたのに、推測の域に過ぎない話をするのも躊躇われるのですが、そのような感じ方はパブリックな場に出るときに身支度の程度で扱いが変わる経験をしたことがない方の意見だと思ってしまいます。

以前に黒人の方が処世術としてどこに行くにも身なりを整えるという話1を聞いたことがあります。自分がビデオミーティングでカメラをオンにするのに身支度をしなければならないと思うのはそれに近い感覚です。

残念ながら、今はどんな人種・ジェンダーに生まれて、プライベートのどんな部分を曝け出しても、全員が暖かく受け入れられる社会だとは思えません。加えて人間の脳が無意識のうちに印象形成する可能性がある以上、例え一瞬だとしても気を抜くことは躊躇われます。そういう意味での自衛策として、パブリックな存在としての自己形成にある程度のコストがかかる人が出てきてしまうのは、今の過渡期社会ではある程度仕方がないことだと思います。

自分も起きて5分で顔を出すことに抵抗が無くなればそれに越したことはないと思います。実際ビデオミーティングの相手も大して気にしていないかもしれません。だけど、過去に身支度の程度の違いで受けた扱いとそれによる心的ショックは、簡単に癒えるものではないと私は知っています。

私が思うに

カメラオンによって情報源が増えると受け手の印象が変わる可能性は高いです。しかし、印象の形成は一瞬なので受け手がコントロールできるものではなく、また必ずしも正確な情報を認知して処理できているかというと怪しい、というのが私の考えです。もちろん、自分が解釈している情報が過剰般化されたものでないかはどんな情報源においても考慮する必要はあると思います。

一方、カメラオフにする事情はプライベートに際どい場合があり、それは論理的根拠に欠けるけれど、倫理的に考慮されるべきだと私は思っています。

では、どう歩み寄るか?

カメラオン派へ、カメラオフの人の事情はプライベートのことが多いので、詳しく詮索したり、急なカメラオンを強要せず、デリケートに扱ってほしいです。カメラオンのほうがいい会議のときは出来るだけ前日までにお知らせしてください。

カメラオフ派へ、視覚情報という重要なコミュニケーションソースを減らす分、自分の意見を補足するテキスト資料などを用意するのがベストだけど、音声だけでもたくさん相槌を打つとか、いつもより大きめの抑揚を付けて喋るなど、情報量を増やす意識をしてほしいです。

会社へ、インターネット回線工事をさせてください。(※私は自営業なので頼む会社がありません)

みなさんへ、読んでくれてありがとうございます。