さらに新しい日記

さらに新しく作られた日記

ウィッチハウス時満ちて

チープなシンセの和音、ディレイのかかったクラップ、叫んでいるか囁いているかの両極端なフィメールボーカル、アートワークは十字架、三角形、鏡面配置、そして紫、黒。ウィッチハウスとは私が2012〜2013年に最も傾倒していた音楽ジャンルである。その潮流にはチルウェイブのシンセを基調としたリヴァーブ強めの浮遊感あるメロディ、そして2010年代前半のポスト・ダブステップムーブメントの最中に生まれたジャンルらしく808などのサウス・ヒップホップ文脈に近いサンプリングを用いた横ノリのリズムがあり、そこに耽美なゴシックテイストとオカルティズムを纏わせたものだ。

シーンは主にインターネットの SoundCloud, Bandcamp, そして Tumblr といった場所で展開された。そもそもチルウェイブがインターネット上で盛り上がったジャンルであることを考えると必然的ではあるが、現場感覚のない局所点在的で寛容なベッドルーム・ダンス・ミュージック上等な立ち位置は、クラウドラップのような当時インターネット上で最先端でクールなジャンルとも影響し合っていて、新しくて夢中になれる求めていた音楽そのものだった。

とはいえ、国内の現場でもウィッチハウスを擁するシーンはあった。当時チルウェイブを潮流に汲むサブジャンルは他にもヴェイパーウェイブやフューチャーファンク、シーパンクといったものが盛り上がり始めていたし、それら兄弟を含めた混沌としつつも新しいシーンがインターネットから現場へと染み出すように形成されていたのだ。しかし当時の私は触れるもの皆傷付けるカミソリのような人格をしていたので、そのシーンに近い人に対してはかなりの塩対応をしてむしろ避けていた。

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全盛期に熱中していた割にミックスも1本しか世に出さず、作ったトラックも発表しなかったのは、本当はそのポジションに入りたかったのに一人で悶々としていた、シーンに対しての妬み嫉みでしかなかった。

そういうわけでウィッチハウスには「私だったらこうするのに!」というアイデアが温存されたままやり損ね続けた結果縺れた関係性がある。2012年から10年経った今、ウィッチハウスという単語を耳にする機会が過去数年と比べて少し増えてきたように思う。これがリバイバルだろうか?と若干ソワソワしていたが、自分が普段ブッキングされるのはどちらかというとノイジーだったり骨太な実験を模索しているシーンで、ウィッチハウスのような軟弱で掴み所の無いダンスミュージックの片鱗は出すにも出せずウズウズするしか無かった。このまままた新しいウィッチハウス的シーンが勃興し始めても私は波に乗り損ねて悶々とするのだろうか、そう思っていた矢先「ウィッチハウスをお願いします」と今回の野菜のハロウィンにブッキングされたものである。野菜の面々とはこれまた10年来の付き合いがあり、彼女らも紆余曲折ありながら10年以上に渡ってハロウィンパーティを模索している、戦友のような関係だ。野菜のハロウィンといえばどストレートなハロウィン表現をしないことが特徴であるが、今年のテーマはティム・バートンとどストレートにハロウィンパーティをやるらしい。彼女らももしかしたら私と同じく一周回って、のストレートさなのかもしれない。そう思うとここは一肌脱いで私の積年の思い晴らさせて頂くしかないでしょう。プレイリストには持ち時間75分に対し7時間分のトラックがセットされており準備万端。あとは当日の流れ次第、満を持して訪れるこの機会を是非見守って頂ければと。

※なおゴスな音楽の話をしつつティム・バートンがテーマのパーティの告知をして画像まで貼っておいてあたかもシザーハンズの仮装をしそうな雰囲気を出してますが、仮装はビートルジュースです。なぜならシザーハンズのコスでは DJ が出来ないからです。